「さんふらわあ」が入港する志布志には鹿児島に暮らす旧友が迎えに来ていた。さっそく、彼の車に乗って国道220号線を西へ。
垂水市内に入り「十五郎そば」で少し早い昼食をとる。「十五郎そば」は江戸末期から七代続く老舗で、そばつゆは弘法大師からの秘伝という伝説を持つ。そばにはうるさい旧友も、やまかけそばを食べて「自然薯(じねんじょ)の味がいい感じで出ていて、つゆも全部飲んでしまった」と満足げだ。
大隅半島にある垂水港から錦江湾を渡るフェリーに乗って、薩摩半島側の鹿児島市に向かう。右手には噴煙をもくもくと噴き上げる桜島の雄大な姿が。およそ40分の移動の間、その山容と周囲がおりなす美しい風景に見とれっぱなしであった。
フェリーが到着する鴨池港から少し車を走らせたところに榎木孝明アートカフェ「ハンナハウス(店舗改装のため休業中−2007年10月現在)」がある。榎木孝明さんが描いた風景画に囲まれて、おいしいお茶をいただく。ここで絵を見て榎木さんのファンになる方も多いというが、なるほど優しい人柄がにじみ出ているような感じだ。
ゆったりとした時間を過ごしたあと、九州自動車道を一気に鹿児島空港まで北上。
空港のすぐ近くとは信じられない静かな山中に、JR肥薩線の嘉例川駅はあった。明治36(1903)年に誕生した木造の駅舎は、百年あまりたってもなおその当時の面影をとどめている。いかにも古めかしい黒色の木造ベンチが二脚、土間の待合室にある。そこに制服姿で腰かけておられたのが「名誉駅長」の福本平さんであった。無人駅の嘉例川にも、かつては駅員がいた。福本さんもその一人だ。その後、嘉例川駅のある隼人(はやと)町から名誉駅長を託され、訪れる人に駅の案内をするようになった。2年前の夏、駅舎を利用して榎木孝明さんの個展が開かれたことがあった。
「普段は静かな駅ですが、このときは1週間で1万人が訪れまして、駅まで人びとがずら〜と列を作っているんです。長い間この駅を見てきましたが、こんなに人がやってきたことはなかったですよ」
と福本さん。軽妙な語り口のなかにも駅への愛があふれている。嘉例川駅を辞そうとしたら「また、おじゃったもんせ(またおいでください)」とお国言葉で送り出してくれた。
嘉例川駅からすぐ近くにあるのが妙見温泉。ひっそりとした温泉郷にある「ぬくもりの宿 妙見石原荘」にお世話になる。自噴の源泉を持ち、ちょうど1時間で満水になる量、つまり毎分300リットルの温泉が大浴場にあふれている。いっさい、加水も循環もさせない100%天然の温泉だ。もったいない、と思えるくらい豊富なお湯がかけ流しにされているけれど、この贅沢さが、本来の温泉なのだ。川のせせらぎを聞きながら、下駄の音を鳴らして温泉に向かう風情が何ともいえない。そして川端にある露天風呂に浸かってみて、初めて分かった。夜空に瞬く星の、なんとすぐ近くにあることよ!

|